「秘書の経験が、相手の立場を理解して動く原動力に」|磯沙緒里さんの転身ストーリー

 「秘書の経験が、相手の立場を理解して動く原動力に」|磯沙緒里さんの転身ストーリー
Shoko Matsuhashi

生徒さんから圧倒的な支持を集め、メディアやイベントでもひっぱりだこのヨガ講師たち。そんな彼らに共通しているのは、「セカンドキャリア」としてヨガ講師を選んでいるということ。彼らの転身までの背景を知ることは、「どうしてヨガ講師として成功できたのか」に結びついているに違いない、そんな思いからスタートした企画。異業種からヨガ講師へ転身した彼らの、決意、行動、思いから、「本当に良いティーチャーとは」という講師の素質にも迫ります。

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♯CASE11「秘書」からヨガ講師への転身ストーリー

ヨガを指導する磯沙緒里さんは、生徒に寄り添い導く「併走者」といった印象。主役を買って出るわけではない控えめに映る存在でありながら、どうして多くのヨギを引き付けるのでしょうか。華やかさやカリスマ性に頼らずとも人気講師になった理由を、ファーストキャリアで培った経験に学びます。

――ヨガ講師になる前は、どんな職業をしていたのですか?

秘書をしている時代が長く、今も第一線で活躍されている女流作家のもとで働いたこともあります。秘書の仕事はスケジュール管理や事務全般、取材や撮影現場の立ち会いなど多岐に渡り、現場では作家とクライアントの間に立ち、場の空気感を壊さずに双方が満足する臨機応変な対応が求められました。その後、大手企業の社長秘書を経験し、柔軟性が求められた作家の秘書から一変、業界特有のルールの中で行動しなければならず最初は戸惑うことも多かったです。例えば、メールの文面や着用するスーツの色にも「こうでなければならない」というルールがたくさんあり、まずはそれらを覚えることが仕事と言ってもいいくらい。とにかく厳しい決まり事の中で仕事をしていました。

磯沙緒里
Photo by Shoko Matsuhashi

――ヨガと出会ったきっかけを教えてください。

子どもの頃からバレエとマラソンを続けてきましたが、ある年齢に達して体が女性らしく変化すると今までできた事ができなくなり、このまま続けるべきか迷いました。私が女性であることは今後も変わらないわけで、今の自分に合う体調管理法を探そうと思いスポーツジムで行ってみました。様々なプログラムを体験し、その中でヨガがすごく気持ちいいなと思ったんです。今まで体を酷使してきたので、動きながら休まる感覚が新鮮で、また興味深くもあり、ヨガを自分の体のために始めてみようと思いました。

磯沙緒里
Photo by Shoko Matsuhashi

――ヨガを始めてすぐにヨガ講師を目指そうと思ったのですか? 何かきっかけはあったのでしょうか?

自分のためにヨガをしていた時期が、10年ぐらいありました。尊敬できる先生に習い、ヨガの奥深さも感じていたので、「そのヨガを私が教えるなんて」と恐れ多くて踏み出せずにいました。ただ資格を取ればいいという生半可な気持ちで、指導者を目指してはいけないと思って。でもヨガを深めたいという気持ちは強く、ヨガ講師になるためというよりヨガをきちんと学ぼうと思い、作家の秘書をしながら指導者養成コースに通い始めました。

レッスンを持つようになったのは、社長秘書になってからです。土日が休みになりレッスンのスケジュールが立てやすくなったことで、副業として週末だけヨガ講師を始めることに。最初は知り合いが暮らすマンションの会議室や屋上を借りて、住人の方たちにヨガを教えるところから始まりました。

――こんな指導者になりたいというビジョンはありましたか?

私が長く教わっていた先生は、60代になってもなお学び続けている方でした。佇まいは静かで一見すると地味ですが、お会いすると必ず学びがあり、レッスンを受ければ「来て良かった」と心から思えた。あまりアーサナができない体調のときでさえ、その場にいられて良かったと思わせてくれる。学び続ける姿勢と、変わらない謙虚さがすごく素敵だなと。自分もそういう人になりたいと思いました。

実は私、ヨガ講師になりたての頃は、人前に立つのがとても苦手でした。秘書は黒子であり、そういう意味では真逆の世界にいたので。私は目立つ存在ではないし、華やかな先生がお好きな生徒さんにとっては、物足りないかもしれません。私のレッスンを受けて気に入ってくれるのは、全体の1割程度だと思っています。1割いたら十分かなと。背伸びをせずにそう思えるのは、「自分に合った生徒さんが来るから、自分から生徒さんを選びにいかないように」という先生のアドバイスのおかげです。無理をして自分を偽ることなく、自然体でいたいと思っています。

磯沙緒里
受講生に寄り添ったクラス作りがモットー

――ヨガ講師になって、秘書の経験が役立っていると感じたことはありますか?

いまだに誰かのアシスタントであろうとする癖が抜けなくて(笑)。「自分を律して相手を立てる」のが性分になっています。でもヨガ講師をするには、その方がいいと思っています。実際、自分が主役になるより生徒さんをサポートするという気持ちでレッスンに臨むとスムーズにいくんです。ヨガをしにくる方は体や心に悩みがあることが多いので、「聞く耳を持って寄り添う対応」が好まれ、満足度につながっているのかなと。私のクラスは50代、60代の男性ヨギも多く、「親しみやすくて参加しやすい」と言っていただけることもあります。

あとは、計画性と調節力でしょうか。秘書はスケジュールを絶対に間違ってはいけないので、管理能力は鍛えられました。しかし、計画を立ててしっかり準備をしても予想外のことは必ず起こります。だから、予想外のことがあっても対応できるように計画する。あえてきっちり詰めすぎないようにしています。例えば、レッスンの内容を決めていっても、ケガをしている人がいるかもしれないし、もしかしたらその方とマンツーマンかもしれない。そうなった場合、現場の状況を見ながら調整できるフレキシブルさも身に付いていると思います。

磯沙緒里
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――「自分から生徒さんを選ばないように」という教えを大切にされていたということですが、では、どのように仕事の幅を広げてきたのですか? 意識的にされていることなどありますか? 

仕事を取りに行こうと意気込むとつかめないような気がして、営業はしたことがありません。目の前に来た仕事をとにかく大事にする、それが信条です。最初はご縁から始まり、知り合いがヨガをしたいと言えば、「どこにでも行きます」という感じで小人数のレッスンも断らずにいたら口コミで広がっていきました。意識した点は、学生時代から趣味で写真を撮っていたこともあり、ビジュアルによるイメージ作りはこだわっています。相手に伝えたい自分のイメージを決め、例えば私なら「信頼性・派手さより落ち着き・そして少しの親しみやすさ」が伝わる写真をチョイスするように。その甲斐あって、HPやインスタを見たという企業やブランドからオファーをいただく機会は多く、「磯さんと面識がないにも関わらず、HPを見て印象に残り連絡した」と言ってもらえます。そういえば、最初のメディア取材も、インスタに載せたレッスン写真に好印象を持っていただいたことがきっかけでした。

磯沙緒里
最初のメディア取材のきっかけとなった一枚。屋上でのヨガレッスンの様子

また、「クライアントの話に耳を傾ける姿勢」も心掛けています。自分のしたいことより、相手がしてほしいことを聞き取って形にしていく。「おまかせします」と言われてもその言葉を鵜のみにせず、対話を通じて相手の思いを引き出すように。相手の立場や思いを理解して仕事をすると次につながっていきます。

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Photo by Shoko Matsuhashi

――最近ではヨガイベントのプロデュースも担当されていますが、どのようなきっかけで始めたのでしょうか?またイベント全体をプロデュースする際に、どんなことに気を付けていますか?

初めてプロデュースを担当したヨガイベントは、「品川シーズンテラスヨガ」です。ヨガ講師になって2年目ぐらいだったと思います。品川シーズンテラスがオープンしたときにヨガイベントの講師として呼んでいただき、現場で担当者と話をしたところ、「ヨガについて何もわからない。そもそもヨガって何?」という感じだったので、「それなら一度お話しましょう」となって。話をするうちに、「一層の事プロデュースをお願いできませんか」と言われて担当することになりました。

ナイトグラスヨガ
品川シーズンテラスヨガは、春から秋にかけて毎週開催される人気イベントに

プロデュース業は初体験でしたが、秘書をしていたときと心持ちは同じです。今度は講師、参加者、クライアントが主役で、目を配る相手が少し増えただけ。私自身を前に出す仕事より性分に合い、本音を言うと楽でした。その後、「SHARE GREEN MINAMI AOYAMA」のプロデュースを依頼されたのは妊娠中のこと。妊娠を機にレギュラークラスのスケジュールを見直し、自宅でできるコラムの執筆やプロデュース業の比重を増やそうと思った矢先で、タイミングに恵まれました。やったことのない仕事と思うと構えてしまうので、今までの仕事の延長と思うようにしています。

磯沙緒里
Photo by Shoko Matsuhashi

――昨年息子さんが生まれ、キャリアプランに変化はありましたか? また、今後の展望を聞かせてください。

これまでは私一人の体を気にかければよく、自由に生きてきました。子どもが生まれて自分の意思だけではままならないことが増えて、築いてきたキャリアプランが一旦壊れた、そう思いましたね。一方で、母親の視点、子どもの側に立った視点を授かり、親の老いについても考えるようになった。いろいろな人の存在が見え始めて視野がすごく広がり、自分がこれから何をしたいか、何をするべきか改めて真剣に考え中です。ヨガを基盤にして世代やライフスタイルを超えた交流を生み、悩みに寄り添い、日々の暮らしが豊かになる活動を行っていきたいと思っています。

磯沙緒里
母になってからは、気付きの連続。キャリアプランの再構築で、新たな展望も見えました

――最後に、ヨガインストラクターを目指している方たちにメッセージをお願いします。

これから資格を取る人は、「どこで、誰に教わりたいか」を明確にしてからスクールを選んでください。ヨガ講師になって壁にぶつかったときに戻れる場所、道しるべをくれる人がいることは、すごく強みになります。だから、資格を取った後もレッスンを受けたいと思う先生を選んでほしいです。

すでに卒業して今後の進路を決めかねている人で、家族に反対されていたり、自分の中で本当にヨガが好きか迷っていたりするなら、一度立ち止まって考える時間を作って。「状況」が整わないうちに走り出すと上手くいかないことが多いです。ヨガ講師としてのビジョンは明確だけど、活躍できるか不安に思い足踏みをしているなら一歩を踏み出すべきだと思います。最初からヨガ講師一本でいく必要はないですし、様々な経験が活かされてくるのがヨガなので、自分に合ったワークスタイルでヨガを教えてみてください。

磯沙緒里
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磯沙緒里さん
ヨガインストラクター。幼少期よりバレエやマラソンに親しみ、体を使うことに関心を寄せる。学生時代にヨガに出会い、会社員生活のかたわら、国内外でさまざまなヨガを学び、本格的にその世界へと導かれてインストラクターに。現在は、これまで学んできたヨガを基軸に学びを深め続けながら、スタイルに捉われずにヨガを楽しんでもらえるよう、様々な内容・シチュエーションでのレッスンを行う。数多くのヨガイベント出演、雑誌やウェブでのヨガコンテンツ監修やコラム執筆のほか、ヨガイベントプロデュースも多数手がけ、活動は多岐に渡る。

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Text by Ai Kitabayashi



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