【賛成・反対、ワクチン接種を巡る対立】不安が高まる中で私たちはどう生きるべきか|臨床心理士の体験

 【賛成・反対、ワクチン接種を巡る対立】不安が高まる中で私たちはどう生きるべきか|臨床心理士の体験
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南 舞
南 舞
2021-09-24

コロナウイルスのワクチン接種が本格的に始まり、『摂取した』という声を聞く機会も多くなりました。しかし接種が始まった事で起きた、新たな問題も。筆者や筆者の周りの体験談や、そこで感じたワクチン接種との付き合い方について、臨床心理士の視点からお話したいと思います。

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『ワクチン、打たないの?』という言葉への違和感

ワクチン接種が始まったものの、筆者の年代は接種の優先順位が低く、予約もなかなか取れないと周囲から聞いていました。筆者自身もワクチン接種に対して不安が全くないわけでもなかったので、様子を見ることに。友人や知人との会話の中で、『ワクチン打つ?』あるいは『ワクチン、もう打った?』と聞かれることもありましたが、ある時、『ワクチン、打たないの?』と言われた言葉に少し違和感を感じたのです。今思えば、『打ってないのはおかしい』と言われたような気がしてもやもやしたのかもしれません。

ワクチン 不安
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『ワクチンの副作用、ヤバイらしいよ!』と言われ、不安に

色々考え、結局はワクチン接種をすることに決めました。積極的には言わないけれど、機会があれば周囲にその旨を伝えていました。ところが、ワクチン接種をすることにしたと話したあたりから、様子が変わっていきます。ある時、何人かの友人・知人からメッセージが届きました。それは、『ワクチンの副作用、ヤバイらしいよ』『ワクチン打つの、考え直したら?』といったような内容のもの。これは筆者だけでなく、周囲の人も似たような体験をしていました。中にはワクチンの危険性に書かれたサイトのURLや、ワクチンがどう危険なのか、そして打つなんてありえないといった否定されるようなメッセージが長文で届くなどあったそうです。ちなみに、こうしたメッセージをもらった時、筆者はもうすでに一度目の接種を終えた後だったので、『打たない方がよかったのかな?』と心がざわつき、それまで感じていなかった不安や緊張が掻き立てられる感じがありました。それでも医療従事者の知り合いや政府が発表している情報を参考に打つことを決めたので、自分の中で不安の気持ちの整理をし、落ち着くことができました。

ワクチン論争、ワクチン争奪戦・・・新手の戦争か?

こうして身近に起こる以外にも、SNSの中でワクチンに関する様々な意見や情報が飛び交っているのを目にします。『打つ』『打たない』それぞれの意見に対して批判の声が上がっている、求めてもいない情報を一方的に告げられて、それが不安やイライラを増幅させるなど。また、ワクチンに関する情報が交差しているだけでなく、ワクチンをめぐって争奪戦が起きているという現状も。これは筆者が体験したことですが、まるでコンサートチケットの申し込みのごとくサイトへのアクセスが集中し、数十分待っていた頃には申し込み終了していました。打ちたいと思ってもどこも申し込みがいっぱい。でもニュースでは日に日に感染者数が増えていく・・・。こうした光景を目の前に、もはや『新たな形の戦争なのではないか』なんて思うことも。身体的な暴力こそ行われないものの、相手の意見を否定する、相手の不安を不必要に煽るといった行動は、形こそ変わった、精神的な暴力なのではないかとため息が出でしまいます。

対立
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正解が分からないワクチン問題・・・その中で私たちができることは?

こうしたことが起きるのはなぜか。それは私たちの中にある【不安】という感情に振り回されるからではないかと思っています。不安という感情は、誰にでもあり、生きていく上では欠かせないもの。ところが、不安の度合いが強くなりすぎると、言動や行動に様々な影響が出てしまいます。自分とは意見の違う人に対して攻撃するのも、頼まれてもいないのに情報を大量に送りつけるのも、不安をうまく扱えない、あるいは不安に対する自分の中のキャパシティを越えてしまった結果なのではないだろうか、そんな風に考えます。正直、ワクチンについて何が正解なのかはまだ分かりません。しかし、そうした中でも【不安】という感情とうまく付き合っていくことができれば、不要な争いにならずに済みます。

コロナによって引き起こされる不安、臨床心理士が勧める対処法とは?

ひと呼吸おく

何か行動したくなる時というのは、自分の中での不安が高まっている合図かもしれません。もし行動したくなる衝動に駆られた時は、ひと呼吸おいてみましょう。ひと呼吸おいたら、『この行動は誰のため?』と自分に問いかけてみます。そうやって問いかけてみると、それが本当に必要な行動なのか見えてくるかもしれませんよ。

情報を制限し、自分の気持ちの波を沈める

ニュースなどの他にも、今はSNSで様々な情報が流れています。それが自分にとって良いものかもしれないし、あまりよくないものかもしれません。もし後者であるなら、あえて遮断する、受け取らないようにするのも大切なことです。また、もし思いがけずそういった情報を与えられてしまった時には、『心配してくれてありがとう。でも自分の中で決めたことだから大丈夫だよ。』などと、アサーティブに情報を受け取らない旨を伝えてみるのもオススメです。

 「〜すべきモード」になっていない?

ワクチン接種については正解も不正解もないのですから、様々な感じ方、意見が生まれるのは自然なことです。しかし、『ワクチンは打つべきなのに、何で打たないの?』『こんな怖いものを打つなんてあり得ない』といった、【〜すべき】というモードになっていると、自分でも気がつかないくらい、見える景色が狭まってしまったり、思いがけない行動・言動をとってしまうことがあります。『私はこう思うけど、〇〇さんはそうは思わないかもしれないよね』ということが頭の片隅にあるだけでも、冷静さを取り戻すことができますよ。

コロナ禍も長くなり、感染者数を目にすると穏やかでいられない気持ちはとてもよく分かります。しかし、コロナの本当の恐ろしさは、身体面だけでなく、心の面にも大きな影響を及ぼし、正常な判断ができなくなったり、本当の意味で私たちの健康を奪ってしまうことなのだと思います。いま一度、自分の中の不安が大きくなっていないか、どうやってその不安と付き合っていくと良いのかを考えてみませんか?

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南 舞

南 舞

公認心理師 / 臨床心理士 / ヨガ講師 中学生の時に心理カウンセラーを志す。大学、大学院でカウンセリングを学び、2018年には国家資格「公認心理師」を取得。現在は学校や企業にてカウンセラーとして活動中。ヨガとの出会いは学生時代。カラダが自由になっていく感覚への心地よさ、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングの考え方と近いものを感じヨガの道へ。専門である臨床心理学(心理カウンセリング )・ヨガ・ウェルネスの3つの軸から、ウェルビーイング(幸福感)高めたり、もともと心の中に備わっているリソース(強み・できていること)を引き出していくお手伝いをしていきたいと日々活動中。



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